今回はインターバル

照明が明るくなって

クラシック音楽のコンサート会場のイメージ。プログラムの前半が終わり、ここで二十分間の休憩。

この時間をずっと座ってプログラムを眺めていてもいい。立ち上がって足を伸ばし、誰か知り合いでもいないかきょろきょろ見回してもいい。あるいは、次のプログラムの演奏中にお腹が鳴って恥ずかしい思いをしないように、売店まで出向いて何か軽く食べるのも悪くない。連れ合いと一緒にグラス一杯のワインを傾けながら(もちろん立ち飲みだ)、前半の演奏の感想や、後半のプログラムの期待を語ってみるのも素敵かもしれない。

コンサートという何となく祝祭的な場には、とくにクラシック音楽のコンサートなのだし、すっきりとした白ワインでも濃厚な赤ワインでもきっとおいしく感じられるに違いないが、この場合、後半の曲目には注意したい。僕について言えば、シェーンベルクなどの傾向の音楽を長々と演奏されると、深い眠りに陥る危険性が高い。

――なんて書き出したけど、ここでちょっと一緒に座席から立ち上がり、ざわざわと賑やかな休憩時間のホワイエに出て、ちょっと気軽におしゃべりしましょう――今回のブログはそんなイメージ。最近あまりにも更新できないし、次に何かの本のことを書き終えるまでにもあとまだ少々かかりそうな見込み。なので、ここでちょっと一息入れてみる。幕間。ないしは、間奏曲。

これまでの読書状況

さて…2008年に入ってからまだ四回しか更新していないけど、それもまともに取り上げた小説は『ダブリンの人びと』と『ワイズ・チルドレン』だけだけど、もちろん実際にはもっとたくさん読んでいて、順繰りにここで取り上げようと思っている。ご存知の方もいると思うが、この二月から通勤時間が一時間半かかることになってしまい、良くも悪くも読書がはかどってしまう。

で、実際に読んだ本を羅列してみる:

ディヴィッド・ロッジ 『楽園ニュース』(一月)

グレアム・スウィフト 『最後の注文』(一月)

グレアム・スウィフト 『ウォーターランド』(一月)

ヘンリー・ジェイムズ 『黄金の杯』(二月)

J.B.プリーストリー 『イングランド紀行』(二月)

ジェイムズ・ジョイス 『ダブリンの人びと』(二月)

ダフネ・デュ・モーリア 『レベッカ』(三月)

トマス・ハーディー 『日陰者ジュード』(三月)

イアン・マキューアン 『贖罪』(三月)

と、このような具合。このリストを見て、あなたはどう思うか。僕ならこう思う――まさしくゴージャス!――なんだか自画自賛だが、イギリス文学的にはなかなか充実したラインナップではないか。しかし、豪華ラインナップだからこそなかなかブログに書けないのかもしれない。ちなみに二月に紹介したアンジェラ・カーターの『ワイズ・チルドレン』は昨年中に読んだものだった。言い訳がましいが、このブログに本の感想をまとめるには、頭の中で内容を発酵させるための熟成期間が必要なのかとも思われる。

せっかく書き出したのだから、それぞれの本について少しずつコメントを。まずは、ディヴィッド・ロッジの『楽園ニュース』。この本を僕が初めて読んだのは、ちょうど今から十年くらい前のこと。当時住んでいた街の図書館で借りて読み、その面白さと味わい深さがとても印象に残った。その頃読んだロッジの小説の中で僕は一番この本が好きだと思った。そして今回久しぶりに読んでみて、その記憶を新たにした次第。でもなぜ今頃再読したかというと、一月は寒い時期なので、なんだか暖かそうな小説が読みたいと思った(楽園ニュースの「楽園」とはハワイのこと)――という、なんとも不純な動機で読み出した一冊。

グレアム・スウィフトの二冊についてだが、これまた知っている人は知っていると思うが、毎年一月の後半、僕は連休を取って、もはや恒例行事となった「とある場所」への海外旅行に出かけるのだが、その際に携えたもの。なぜオーランドに(隠さず書いてみた)出かけるのにグレアム・スウィフトなのか――この動機も不純だった。この二冊は新潮社のクレストブックシリーズから発行されているが、このシリーズの本はとても重さが軽い。大きさは単行本くらいあるのだが、ペイパーバックのように軽く仕上がっている。だから、旅行に持っていくのにいい思った。旅に重い荷物では出かける前からうんざりしてしまう。ところで、このグレアム・スウィフトの二冊は、その軽い体裁にかかわらず、内容はしっかりしていて大変によろしかった。とくに『ウォーターランド』のほうは、僕が読んだ現代イギリス小説の中でも、間違いなくかなり良い作品。

二月に入って『黄金の杯』――ヘンリー・ジェイムズが実は好きになってしまった。僕は読書スピードがかなり速いほうだが、ヘンリー・ジェイムズだけは、どうしても読むのに時間がかかる。ちゃんとしっかり丁寧に読まないと内容がつかめない。つまりこれは、かなり回りくどい言い回しで書かれているという意味だ。でも、これぐらい歯ごたえがある小説じゃないと、なんだか最近は刺激が足りなくてさ――と、中毒症状気味の僕は思う。ということで、『大使たち』と『鳩の翼』も、これから読む小説のリストに入っている。

でも、ヘンリー・ジェイムズと大格闘したあとは、J.B.プリーストリーの『イングランド紀行』のような読みやすい紀行文に僕は癒しを求めた。ところで、癒されることを望んだわりには、なかなか読んでいて面白かった。本当に良い紀行文とはこのような本のことを指すのだろう。国語の教科書で読んだ紀行文とはだいぶ趣を異にする。

『ダブリンの人びと』は無事にブログにまとまったので、次は『レベッカ』について。ダフネ・デュ・モーリアだ。この小説は、つまらないと思う人と、面白いと思う人に分かれると思う。でも、つまらないと思う人も実際に読んでいるときに限っていえば、きっと興味津津でかなり引き込まれていたのだろうと想像する。この本には人に読ませる力がある。僕は主人公にはなんだかいらいらしてしまったが、でも、読み物としてはとても楽しめた。

ハーディーの『日陰者ジュード』。久しぶりに「古い」小説を読んだが――ちなみに、僕の中では自動車が登場しない時代の小説は「古い」小説とみなされる――これまたなかなか興味深かった。この時期(ヴィクトリア朝後期)の小説は、以前ジョージ・エリオットの『ミドルマーチ』を読んで以来だと思う。この小説は当時の社会から大反発を引き起こしたそうだが、この程度で反感を買ってしまうというのは、どうなんだろう。ヴィクトリア朝の道徳感にも、やれやれという感じがしてしまう。個人的には、全体的には突出して際立って良い小説とまでは感じなかったけど、ときどき印象に残るような場面もあったりして、そういうところはブログで紹介してみたいと思った。

そして、マキューアンの『贖罪』。以前から読もう読もうと思っていたのだけど、突然文庫本で発売になったので早速購入。要するに、今度この小説の映画が公開される(タイトルは『つぐない』だそうだ)のだけど、これに合わせて文庫化されたようだ。世の中結局商売ですな。とはいえ、単行本よりお安く購入できた僕としては大満足。そして、内容もなかなか満足。個人的にはスウィフトの『ウォーターランド』のほうが好きだが、これに匹敵するかなりのできばえの小説。内容の構成に関しては、このような話の展開のしかたは、ちょっとズルくないか、と感じさせないこともないが。でも、味わい深くて印象的な読書体験は約束できる。

予鈴が響き渡って

さて――後半の演目の始まりを知らせる予鈴が鳴り出した。ホワイエで談笑していた人びとも席に戻り始めている。僕たちもここで先程まで座っていた座席に戻り、次の演奏を待つことにしよう。ホール内の照明は、まもなく暗くなる。