イギリスの小説

イーヴリン・ウォー 『ブライヅヘッドふたたび』

『ブライヅヘッドふたたび』(吉田健一訳、ちくま文庫1990) 『回想のブライズヘッド(上下巻)』(小野寺健訳、岩波文庫2009)Evelyn Waugh Brideshead Revisited (1945) あの素晴しい愛をもう一度 いきなり唐突だけど、「あの素晴しい愛をもう一度」という…

 ダフネ・デュ・モーリア 『レベッカ』

(大久保康雄訳、新潮文庫1971) (茅野美ど里訳、新潮文庫2008) Daphne du Maurier Rebecca 1938 不安にかられる瞬間がある。家を出るのが遅くなってしまったが、約束の時間に間に合うだろうか――マイペースな僕はこの種の不安には、残念ながらよく襲われる…

 ジェイムズ・ジョイス『ダブリンの人びと』

(米本義孝訳、筑摩書房ちくま文庫、2008) James Joyce Dubliners 1914 超マニアのための入門書 今年の二月にちくま文庫版『ダブリンの人びと』が新訳として発売になった。ジェイムズ・ジョイスの『Dubliners』は岩波文庫でも新潮文庫でも発売されているか…

 アンジェラ・カーター 『ワイズ・チルドレン』

(太田良子訳 ハヤカワ文庫2001) Angela Carter Wise Children (1991) イギリス文学っていうのは、ちょっと「お地味」ではないかと思うときがある。とくに第二次世界大戦後の小説を読んでいるときに感じる。「華やかさ」というよりは、「暗さ」のほうが目…

2007年回顧(このブログ編)

やる気なし!? さっそく振り返ってみるとしよう。まずは更新ペースの問題から。以前は時間のあるときに不定期で更新していたこのブログだけれど、今年の二月から金曜日更新ということに決めてみた。この作戦、六月までは順調だった。ちゃんと毎月四回更新で…

2007年回顧(出版編)

今年の出版物を振り返って 今年2007年は、お正月からびっくりさせられてスタートした。元旦の新聞に、長らく絶版だった、あのロレンス・ダレル「アレクサンドリア四重奏」(高松雄一訳、河出書房新社)シリーズが再び出版されるという広告を発見したことだ。…

 エリザベス・テイラー 『エンジェル』

(小谷野敦訳、白水社2007) (最所篤子訳、ランダムハウス講談社2007) 〔Elizabeth Taylor Angel 1957〕 強い情念の世界 僕が思うに、物事にクールで、何事にも執着せず達観して生きていけるような登場人物は、小説にはふさわしくない。主人公が「別にどう…

 D.H.ロレンス 『恋する女たち』

(福田恒存訳、新潮社 1969)〔D.H. Lawrence Women in Love 1920〕 水泳 近頃、頻繁にプールに泳ぎに行っていて、そのせいもあってこのブログの更新がなかなか進まなかったりするのだが、それはともかく、やっぱり水泳は気持ちがいい。個人的には水を切って…

 D.H.ロレンス 『恋する女たち』

(福田恒存訳、新潮社 1969) 〔D.H. Lawrence Women in Love 1920〕 ジェラルド・クライチの放電 昔に書かれた小説を読んでいると、当時の技術や生活についての自分の無知ぶりに気づかされることが多々ある。たとえばジェイン・オースティンの小説の時代。…

 D.H.ロレンス 『恋する女たち』

(福田恒存訳、新潮社 1969) 〔D.H. Lawrence Women in Love 1920〕 懲りずにまた姉妹の文学 いつの間にか今年の読書テーマのひとつに、勝手になってしまった「姉妹のイギリス文学」シリーズ。これまでにここで取り上げてきたのは、順に、ジョージ・エリオ…

 アントニー・バージェス 『1985年』

(中村保男訳 サンリオ文庫 1984) 〔Anthony Burgess 1985 1978〕 サンリオ文庫 SFや海外文学の古書が好きな人なら、サンリオSF文庫(あるいはサンリオ文庫)は、やはりとても気になる。「すごくメジャーというわけでもないけれど、でもやっぱり興味を満た…

 ジェイン・オースティン 『分別と多感』

〔Jane Austen Sense and Sensibility 1811〕 (中野康司訳 筑摩書房ちくま文庫 2007) 姉妹の文学ふたたび 感情を抑制して、常に分別ある態度を怠らないお姉さんのエリナー。一方の妹マリアンは自分の感情のおもむくまま、言いたいことを言い、したいことを…

 マーガレット・ドラブル 『針の眼』

(伊藤礼訳、新潮社 1988) 〔Margaret Drabble The Needle's Eye 1972〕 ロンドンの北部にあるマズウェル・ヒルという小さな街を、僕は自動車で一度だけ通ったことがある。それは雨の降る暗い夕方で、こういう天気と時間帯ではありがちだけど、道路はかなり…

 ヴァージニア・ウルフ 『ダロウェイ夫人』

(丹治愛訳、集英社文庫 2007) 〔Virginia Woolf Mrs Dalloway 1925〕 冒頭 タイセイは、本は僕が買ってくるよ、と言った。 せっかく『ダロウェイ夫人』の新しい文庫本が出たのだから。以前から単行本としては発売されていたものだし、でもこれが他の『ダロ…

 アンガス・ウィルソン 『悪い仲間』

(工藤昭雄・鈴木寧訳、白水社、1968) 〔Angus Wilson The Wrong Set and Other Stories 1949〕 幸運なデビュー アンガス・ウィルソンは戦後イギリスで最も敬意を集めていた作家の一人だった。今回取り上げた彼の処女短編集『悪い仲間』が書かれた経緯は(…

 アントニー・バージェス 『エンダビー氏の内側』

(出淵博訳、早川書房1982) 〔Anthony Burgess Inside Mr. Enderby (1963)〕 ローマ。僕にとってのローマ。昔から古代ローマに興味があり、塩野七生さんの本も愛読したので、あの街に残された遺跡を巡って過去の追憶にひたるべく、また訪れてみたいなという…

 アイリス・マードック 『天使たちの時』

(石田幸太郎訳、筑摩書房1968) 〔Iris Murdoch The Time of the Angels 1966〕 架空の書物 今回取り上げるアイリス・マードックとはあまり関係ないけど、まずはスタニスワフ・レム(1921-2006)の話。彼のSF作品の中にはときどき架空の書物名が出てくるの…

 A.S.バイアット 『ゲーム』

(鈴木建三訳、河出書房新社1977) 〔A.S.Byatt The Game 1967〕 『ミドルマーチ』の存在感 ちょっと前にこのブログで紹介したとおり、僕はジョージ・エリオットの『ミドルマーチ』を読み終えた。そして続いて、『ミドルマーチ』が作品内で言及されていたヴ…

ジュリアン・バーンズ 『太陽をみつめて』

(加藤光也訳、白水社 1992) 〔Julian Barnes Staring at the Sun 1986〕 ご活躍中の方々 「イギリスの最近の男性作家で…最近って言ってもいろいろあるから…そう、戦後生まれの作家で、おススメは?って、訊かれたら誰かな」 「それって、マニアックな意味…

 マーガレット・ドラブル『夏の鳥かご』

(井内雄四郎訳、新潮社 1973) 〔Margaret Drabble A Summer Bird-Cage 1963〕 兄弟姉妹 『夏の鳥かご』は、1939年生まれで今年68歳になるマーガレット・ドラブルが24歳のときに出版した彼女の処女作。1963年の発表ということは、現在から四十年以上も前の…

 ヴァージニア・ウルフ 『灯台へ』

(御輿哲也訳、岩波文庫 岩波書店 2004) (伊吹知勢訳、ヴァージニア・ウルフ コレクション みすず書房 1999) (中村佐喜子訳、新潮文庫 新潮社 1955) 〔Virginia Woolf To the Lighthouse 1927〕 宵から夜、夜から朝へ 今回『灯台へ』を読み終えて、「や…

ジョージ・エリオット 『ミドルマーチ』 

(工藤好美・淀川郁子訳、講談社文芸文庫①〜④ 1998) 〔George Eliot Middlemarch (1872)〕 フルートを吹いた男、タイセイ 小さい頃には習い事に行かされたりする。僕の場合はまず水泳。当時はかなり嫌々だったけど、今になってみると結果的には良かった。…

ジョージ・エリオット 『ミドルマーチ』 

(工藤好美・淀川郁子訳、講談社文芸文庫①〜④ 1998) 〔George Eliot Middlemarch (1872)〕 語り手エリオット 前回のブログでミドルマーチの第一章の冒頭を紹介した。あの、「ブルック家の長女には、粗末なよそおいのため一段とひきたって見えるといった美…

 ジョージ・エリオット 『ミドルマーチ』

(工藤好美・淀川郁子訳、講談社文芸文庫①〜④ 1998) 〔George Eliot Middlemarch (1872)〕 きっかけはバーゴンジーから マーガレット・ドラブルの処女作『夏の鳥かご』を読んだのはだいぶ前のことなのに、このブログでなかなか紹介できないでいる。紹介す…

 ロレンス・ダレル 『アレキサンドリア四重奏I ジュスティーヌ』 

(高松雄一訳、河出書房新社 2007) 〔Lawrence Durrell Justine (1957)〕 異端児ダレル 僕が興味を持っている時代、つまり20世紀の半ばから後半にかけてのイギリスのことだけれども、オクスフォードかケンブリッジを卒業しているということの持つ意味は、…

 グレアム・グリーン 『権力と栄光』 

(斎藤数衛訳、早川書房 ハヤカワepi文庫 2004) 〔Graham Greene The Power and the Glory (1940)〕 舞台 1930年代のメキシコ。このメキシコの中でも東のはずれのほうにある、タバスコ州の田舎町を中心に『権力と栄光』のストーリーは展開する。当時のメ…

若島正編 『棄ててきた女 アンソロジー/イギリス編』

(異色作家短編集19 早川書房2007) 作品の配膳 僕は持っていないのでわからないけど、「iPod」っていうのはきっと、どこかしらからかダウンロードした音楽を貯めこんで、持ち歩いて聴けるようにする機械なのだと思う。そして自分が好きだ、聴きたいと思った…

 ジョン・ベイリー 『赤い帽子』 

(高津昌宏訳、南雲堂フェニックス2007) 〔John Bayley The Red Hat 1997〕 フェルメール フェルメールの絵を実際に観たことがあるだろうか。かつてロンドンで行われた「フェルメールとデルフト派展」に行き、僕は初めて彼の作品に遭遇したのだが、そのとき…

 B.S.ジョンソン『老人ホーム――一夜のコメディ』

(青木純子訳、東京創元社2000) 〔B.S.Johnson House Mother Normal (1971)〕 耳で聴く文化 かつてまだ中学生の頃、この年頃にはありがちだけれども、僕は部屋にあったラジオを一生懸命聴くようになり、なかでもNHKFMの熱心な愛聴者になった。NHKFMというこ…

 ウィリアム・トレヴァー『聖母の贈り物』

(栩木伸明訳、国書刊行会「短編小説の快楽」シリーズ、2007) イギリスの夏 イギリスに旅行に行くとしたら、いつの時期に出かけるのがいいだろうか。自分の仕事とか、旅行代金とか、そういう諸事情を一切忘れて、一番訪れてみたい時期を考えてみる。買い物…