イーヴリン・ウォー 『ブライヅヘッドふたたび』

『ブライヅヘッドふたたび』(吉田健一訳、ちくま文庫1990) 『回想のブライズヘッド(上下巻)』(小野寺健訳、岩波文庫2009)Evelyn Waugh Brideshead Revisited (1945) あの素晴しい愛をもう一度 いきなり唐突だけど、「あの素晴しい愛をもう一度」という…

メルヴィン・ブラッグ『英語の冒険』

(三川基好訳、講談社学術文庫2008) Melvyn Bragg The Adventure of English: The Biography of a Language (2003) 退屈な文学史 どの大学に入学したとしても、イギリス文学を専攻すると、イギリス文学史が必修科目になるのだろうと想像する。これは、最終…

 いったい何をしていたのか。

すっかりご無沙汰になってしまっていた、かわいそうなこのブログ。今年はなかなか更新されず、書き手はいったい何をしていたのだろう。 読書なしでは生きていけないので、いつも何かしらの本を読んでいるのは間違いないけど、どうもブログに書いてまとめるま…

 リック・ゲコスキー 『トールキンのガウン』

(高宮利行訳、早川書房2008) 現在、僕の本棚には何冊の本があるのだろう。数えてみたことがないからわからない。たぶん、「本好き」を称する人間としてはあまり多くないのではないかと思う。興味のない本は買わないし、買ったとしてもやがてブックオフに持…

 ウィンストンの飲むワイン

お正月とか親戚の結婚式とか、お酒が供される機会に子供も同席することがある。あるいは父親が風呂上りにテレビを観ているときかもしれない。いずれにしてもそんなとき、大人たちはビールをいかにもおいしそうに飲むので、子供は誰でも一回は試したくなるわ…

 ダフネ・デュ・モーリア 『レベッカ』

(大久保康雄訳、新潮文庫1971) (茅野美ど里訳、新潮文庫2008) Daphne du Maurier Rebecca 1938 不安にかられる瞬間がある。家を出るのが遅くなってしまったが、約束の時間に間に合うだろうか――マイペースな僕はこの種の不安には、残念ながらよく襲われる…

今回はインターバル

照明が明るくなって クラシック音楽のコンサート会場のイメージ。プログラムの前半が終わり、ここで二十分間の休憩。この時間をずっと座ってプログラムを眺めていてもいい。立ち上がって足を伸ばし、誰か知り合いでもいないかきょろきょろ見回してもいい。あ…

 『論座』2008年4月号の特集「理想の書評」

先日参加した会社の会議で、「採用面接で質問してはいけない事項一覧」というプリントが配られた。同和問題等で出身地を問いただすのはよろしくないということはわかっていたけれども、他にもあれこれ項目があり、僕が就職活動をしていた一昔前に比べて、最…

 ジェイムズ・ジョイス『ダブリンの人びと』

(米本義孝訳、筑摩書房ちくま文庫、2008) James Joyce Dubliners 1914 超マニアのための入門書 今年の二月にちくま文庫版『ダブリンの人びと』が新訳として発売になった。ジェイムズ・ジョイスの『Dubliners』は岩波文庫でも新潮文庫でも発売されているか…

 アンジェラ・カーター 『ワイズ・チルドレン』

(太田良子訳 ハヤカワ文庫2001) Angela Carter Wise Children (1991) イギリス文学っていうのは、ちょっと「お地味」ではないかと思うときがある。とくに第二次世界大戦後の小説を読んでいるときに感じる。「華やかさ」というよりは、「暗さ」のほうが目…

サイモン・アーミテイジ 「叫び」

The Shout We went out into the school yard together, me and the boy whose name and face I don't remember. We were testing the range of the human voice: he had to shout for all he was worth, I had to raise an arm from across the divide to s…

2007年回顧(このブログ編)

やる気なし!? さっそく振り返ってみるとしよう。まずは更新ペースの問題から。以前は時間のあるときに不定期で更新していたこのブログだけれど、今年の二月から金曜日更新ということに決めてみた。この作戦、六月までは順調だった。ちゃんと毎月四回更新で…

2007年回顧(出版編)

今年の出版物を振り返って 今年2007年は、お正月からびっくりさせられてスタートした。元旦の新聞に、長らく絶版だった、あのロレンス・ダレル「アレクサンドリア四重奏」(高松雄一訳、河出書房新社)シリーズが再び出版されるという広告を発見したことだ。…

 エリザベス・テイラー 『エンジェル』

(小谷野敦訳、白水社2007) (最所篤子訳、ランダムハウス講談社2007) 〔Elizabeth Taylor Angel 1957〕 強い情念の世界 僕が思うに、物事にクールで、何事にも執着せず達観して生きていけるような登場人物は、小説にはふさわしくない。主人公が「別にどう…

 ジョージ・オーウェル 『一杯のおいしい紅茶』

(小野寺健編訳、朔北社1995) オーウェルのイギリス人気質 こういうブログでも、あるいは新聞や雑誌とか、どのような機会でもいいのだが、もしあなたがエッセイストだったとして、何でもいいから好きなことを書いてくださいと頼まれたら、どんなことを書く…

 D.H.ロレンス 『恋する女たち』

(福田恒存訳、新潮社 1969)〔D.H. Lawrence Women in Love 1920〕 水泳 近頃、頻繁にプールに泳ぎに行っていて、そのせいもあってこのブログの更新がなかなか進まなかったりするのだが、それはともかく、やっぱり水泳は気持ちがいい。個人的には水を切って…

 D.H.ロレンス 『恋する女たち』

(福田恒存訳、新潮社 1969) 〔D.H. Lawrence Women in Love 1920〕 ジェラルド・クライチの放電 昔に書かれた小説を読んでいると、当時の技術や生活についての自分の無知ぶりに気づかされることが多々ある。たとえばジェイン・オースティンの小説の時代。…

 D.H.ロレンス 『恋する女たち』

(福田恒存訳、新潮社 1969) 〔D.H. Lawrence Women in Love 1920〕 懲りずにまた姉妹の文学 いつの間にか今年の読書テーマのひとつに、勝手になってしまった「姉妹のイギリス文学」シリーズ。これまでにここで取り上げてきたのは、順に、ジョージ・エリオ…

 アントニー・バージェス 『1985年』

(中村保男訳 サンリオ文庫 1984) 〔Anthony Burgess 1985 1978〕 サンリオ文庫 SFや海外文学の古書が好きな人なら、サンリオSF文庫(あるいはサンリオ文庫)は、やはりとても気になる。「すごくメジャーというわけでもないけれど、でもやっぱり興味を満た…

 ジェイン・オースティン 『分別と多感』

〔Jane Austen Sense and Sensibility 1811〕 (中野康司訳 筑摩書房ちくま文庫 2007) 姉妹の文学ふたたび 感情を抑制して、常に分別ある態度を怠らないお姉さんのエリナー。一方の妹マリアンは自分の感情のおもむくまま、言いたいことを言い、したいことを…

 マーガレット・ドラブル 『針の眼』

(伊藤礼訳、新潮社 1988) 〔Margaret Drabble The Needle's Eye 1972〕 ロンドンの北部にあるマズウェル・ヒルという小さな街を、僕は自動車で一度だけ通ったことがある。それは雨の降る暗い夕方で、こういう天気と時間帯ではありがちだけど、道路はかなり…

 ヴァージニア・ウルフ 『ダロウェイ夫人』

(丹治愛訳、集英社文庫 2007) 〔Virginia Woolf Mrs Dalloway 1925〕 冒頭 タイセイは、本は僕が買ってくるよ、と言った。 せっかく『ダロウェイ夫人』の新しい文庫本が出たのだから。以前から単行本としては発売されていたものだし、でもこれが他の『ダロ…

 英詩は読者を獲得するか

阿部公彦『英詩のわかり方』(研究社、2007年3月) 小林章夫『イギリスの詩を読んでみよう』(NHK出版、2007年7月) バッハの楽譜 いつも昔の話ばかりで恐縮してしまうが、中学生や高校生の頃、一人で東京に出てくる機会があるとだいたい銀座に向かった。僕…

 アンガス・ウィルソン 『悪い仲間』

(工藤昭雄・鈴木寧訳、白水社、1968) 〔Angus Wilson The Wrong Set and Other Stories 1949〕 幸運なデビュー アンガス・ウィルソンは戦後イギリスで最も敬意を集めていた作家の一人だった。今回取り上げた彼の処女短編集『悪い仲間』が書かれた経緯は(…

 アントニー・バージェス 『エンダビー氏の内側』

(出淵博訳、早川書房1982) 〔Anthony Burgess Inside Mr. Enderby (1963)〕 ローマ。僕にとってのローマ。昔から古代ローマに興味があり、塩野七生さんの本も愛読したので、あの街に残された遺跡を巡って過去の追憶にひたるべく、また訪れてみたいなという…

 アイリス・マードック 『天使たちの時』

(石田幸太郎訳、筑摩書房1968) 〔Iris Murdoch The Time of the Angels 1966〕 架空の書物 今回取り上げるアイリス・マードックとはあまり関係ないけど、まずはスタニスワフ・レム(1921-2006)の話。彼のSF作品の中にはときどき架空の書物名が出てくるの…

 A.S.バイアット 『ゲーム』

(鈴木建三訳、河出書房新社1977) 〔A.S.Byatt The Game 1967〕 『ミドルマーチ』の存在感 ちょっと前にこのブログで紹介したとおり、僕はジョージ・エリオットの『ミドルマーチ』を読み終えた。そして続いて、『ミドルマーチ』が作品内で言及されていたヴ…

ジュリアン・バーンズ 『太陽をみつめて』

(加藤光也訳、白水社 1992) 〔Julian Barnes Staring at the Sun 1986〕 ご活躍中の方々 「イギリスの最近の男性作家で…最近って言ってもいろいろあるから…そう、戦後生まれの作家で、おススメは?って、訊かれたら誰かな」 「それって、マニアックな意味…

J.M.クッツェー『夷狄を待ちながら』

(土岐恒二訳、集英社文庫 2003) 〔J.M.Coetzee Waiting for the Barbarians 1980〕 タイトルの翻訳 今回もそうだけど、英語で書かれた小説(とくにイギリス圏のもの)を、僕は日本語で読んでいる。そして読んでみて「これはいい!」と思った本は、できるだ…

 マーガレット・ドラブル『夏の鳥かご』

(井内雄四郎訳、新潮社 1973) 〔Margaret Drabble A Summer Bird-Cage 1963〕 兄弟姉妹 『夏の鳥かご』は、1939年生まれで今年68歳になるマーガレット・ドラブルが24歳のときに出版した彼女の処女作。1963年の発表ということは、現在から四十年以上も前の…